殺人事件の大半は親族間で起きているという事実をご存知でしょうか?このような事件が起きるとしばしばメディアでは親子の歪な関係が取り上げられます。
今回は親の子供へ対する愛情のかけ方が、子供の人格形成にどう影響を及ぼすのか、精神医学的な観点から2回に分けて見ていきたいと思います。
目次
人格とは?
人格とはWHOによると、『素質、発達、社会的経験から生じた人の独自の生活様式と適応方法を特徴づける思考、感情、行動の浸透した様式』とされています。
愛着理論
愛着理論とは、心理学、進化学、生態学における概念であり、人と人との親密さを表現しようとする愛着行動についての理論です。子供は社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それが無ければ、子供は社会的、心理学的な問題を抱えるようになります。愛着理論は、心理学者であり精神分析学者でもあるジョン・ボウルビィによって確立されました。
愛着行動
子どもは本能的に、安全や安心感を得るために、泣く、呼ぶ、後を追う、しがみつくなどの自分より強くて賢く見える者への近接に結びつく愛着行動を取ります。相手がそれに答えてケア(対応)すると、今度は相手に見守られながら周囲を探索します。
上記で述べた愛着関係は幼少期に母親との間で最も著明に見られますが、形を変えて一生を通して他者との間で見られます。
愛着関係を喪失する恐れは不安と怒り、実際の喪失は悲しみと怒り、維持は安心、刷新は喜びを惹起します。
愛着関係が内在化され、作業モデル(自己/他者)が形成されます。この作業モデルとは何か、次の項で説明していきます。
作業モデル
作業モデルとは自己と愛着対象の位置、能力、環境と状況の変化による反応様式の表象モデルのことです。簡単に言うと、他者に対して自分がどう接すればいいかのマニュアルみたいなものです。
作業モデルにより、自分の中でその行動によりどのようなことが起きるかを予想し行動を計画することができます。
これらのモデルは常に使用され、思考、感情、行動は無意識のうちに影響を受けます。
児童青年期に作成されたモデルはあまり変化せずに一生持続する傾向があります。
作業モデルのテーマ
先程作業モデルとは何かについて説明しました。ここではどのように作業モデルを分類していくのか見ていきましょう。
作業モデルには
・自己モデル(自分の能力などに関係するもの)
・他者モデル(他者に求めるもの)
の2種類があり、それぞれに肯定的と否定的の2種類があります。
- 自己モデル
肯定的作業モデル | 否定的作業モデル |
困難を乗り越える能力がある | 困難を乗り越える能力がない |
愛と支援を受ける価値がある | 愛と支援を受ける価値がない |
- 他者モデル
肯定的作業モデル | 否定的作業モデル |
信頼できる | 信頼できない |
援助的 | 拒絶的 |
親の養育が子に及ぼす影響
適切な親の養育
半数以上の親は子供の愛情欲求に反応し、子供の探索行動を奨励します。その結果子供は、困難な時に自分を助けられるし助けてもらえるという自己モデルを形成し、安定した性格で、自信があり、信頼でき、協力的な人物に成長します。これを安定型愛着と呼びます。
不適切な親の養育
病原性の親は子供の愛情欲求に反応せず、子供の自立を妨げます。その結果子供は否定的自己モデルを形成し、自身欠乏、不安、依存的、未熟になり、その結果ストレス下でうつ病や神経症、恐怖症などになりやすくなります。
不安定な愛着とうつ病の関係
先ほど病原性の親に育てられた人はうつ病になりやすいと述べました。ここでは子供がそれによって被った不安定な愛着のケースを2例紹介します。
不安型愛着
否定的自己モデルの存在が大きいです。愛着対象を失うのでないかと常に不安、容易に愛着行動を示します。愛着対象との死別や分離で怒りや自責を伴ったうつ病になりやすく、経過は長引きます。
回避型愛着(強迫的自立)
否定的他者モデル+肯定的自己モデルの存在が大きいです。愛着感情・行動を抑制、拒否を恐れて親密性を放棄し、全てを頑張って一人でやろうとします。愛着対象の喪失から遅れてうつ病になりやすいです。社会的役割喪失にも反応する傾向があります。
ここまで愛着理論と親の養育について書きました。2回目は大人の対人関係に及ぼす影響、そして精神障害などについて詳しく書いていきたいと思います。
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